本記事は英文ブログを日本語に翻訳再編集(一部追記を含む)したものです。本記事の正式言語は英語であり、その内容・解釈については英語が優先します。
KARAN VERMA
Principal Analyst, Clarivate
中国本土では近年、ダイナミックな経済状況や人口動態に対応するために、規制や償還に関する一連の改革が行われてきました。クラリベイトの市場評価エキスパートであるKaran Vermaが、中国本土の2型糖尿病市場におけるこれらの改革の役割と、革新的な医薬品へのアクセスをどのように広げられるかについて解説します。
中国本土の2型糖尿病は高い成長率を維持している
中国本土では、10人に1人、約1億4,000万人が2型糖尿病を患っていると推定されています1,4。これは、過去数十年にわたる中国の急速な都市化を反映しています。中国では、ブドウ糖の腸管吸収を低下させ、インスリン感受性を高めることで血糖値を適切にコントロールする、いくつかの抗糖尿病治療薬が販売されています4。
効果的なT2D治療薬の導入を妨げている断片的な規制環境
従来、中国本土のT2D患者の多くは、入手のしやすさ、費用対効果の高いジェネリック医薬品の入手可能性、HbA1c値を低下させる効果の認識などから、ファーストライン治療ではメトホルミン、セカンドライン治療ではアカルボース、スルホニル尿素、チアゾリジン系薬剤などの標準的な抗糖尿病治療を受けてきました。これらの治療薬には、体重増加、心血管系の安全性に関する懸念、低血糖の発生率の高さなどの副作用があるものの、血糖値を下げる効果があるため、使用率は高いままでした。
しかし、SGLT-2阻害剤やGLP-1受容体作動薬など、従来の治療薬よりも体重減少や心血管系への影響が少ない、より優れた治療薬へのアクセスは、保険償還がないため、二次治療に限られていました。その結果、ほとんどの患者さんは、NRDL (National Reimbursement Drug List) のカテゴリーAによる完全な償還を受けながら、従来の治療法の選択を受け続けたため、コントロール率やコンプライアンスの低さに悩まされていました。
なぜ、T2Dは当局が進めるアクセスと償還の改革における焦点となっているのか?
中国本土では過去10年間に糖尿病と糖尿病合併症の有病率が急増したため、中国当局はT2D治療薬への患者のアクセスをより臨床的に効果的に改善することを求めています。
中国当局のT2Dに対する関心を高めている主な要因は以下の通りです。
- 今後20年間で糖尿病人口が大幅に増加すると予測されていること4。これは、欧米の食生活パターンへの適応が進み、座りがちなライフスタイルや運動不足の傾向があるためです
- 大規模な糖尿病人口を抱える他国と比較して、診断率と処方治療の普及率が比較的低いこと3
- 効果的なT2D治療法へのアクセスが不十分なため、血糖コントロール率が低い (49%未満)4
- T2Dに関連する直接的および間接的な医療費が増大するため、医療制度に対する持続的な財政負担
2018年、中国本土では、主要なジェネリック医薬品を対象とした数量ベースの調達 (VBP) プログラムを導入しました。このプログラムでは、国家医療保障局 (NHSA) が、GQCE (Generic Quality and Consistency Evaluation) 基準を遵守しながら、中国本土の患者に低価格の治療法を提供しているジェネリックメーカーに対して、数量販売を認めました。それ以来、5回にわたるVBPプログラムの成功により、いくつかのT2D治療薬のジェネリック医薬品の価格が合理化されました (表1)。
表1: 中国本土におけるVBPプログラムの対象となるT2D治療薬のリスト
VBPラウンド | 年月 | 治療薬 | 作用機序 (MOA) | 開発元 | 入札件数 | 開発元の落札有無 | 値下げ率 |
Round 2 | 2020年1月 | Acarbose | Alpha-glucosidase inhibitors | Bayer | 2 | 有 | 92.1%5 (brand)77.198 (generic) |
Glimepiride | Sulfonylureas | Sanofi | 5 | 無 | ~53%9 (generic) | ||
Round 3 | 2020年8月 | Metformin | Biguanides | Bristol Myers Squibb | 8 | 無 | 84.11%6 (generic) |
Metformin sustained release | Biguanides | Merck | 8 | 無 | 71.06%6 (generic) | ||
Vildagliptin | DPP-IV inhibitors | Novartis | 6 | 無 | 78.86%6 (generic) | ||
Round 4 | 2021年2月 | Empagliflozin | SGLT-2 inhibitors | Boehringer Ingelheim | 4 | 無 | 55.93%7 (generic) |
Canagliflozin | SGLT-2 inhibitors | J&J | 2 | 無 | 56.14%7 (generic) | ||
Gliclazide | Sulfonylureas | Servier | 3 | 無 | 53.46%7 (generic) | ||
Nateglinide | Meglitinides | Novartis | 2 | 無 | 14.56%7 (generic) | ||
Repaglinide | Meglitinides | Novo Nordisk | 2 | 無 | 65.55%7 (generic) | ||
Round 54 | 2021年6月 | Saxagliptin | DPP-IV inhibitors | AstraZeneca | TBC | TBC | TBC |
Glipizide | Sulfonylureas | Pfizer | TBC | TBC | TBC | ||
Miglitol | Alpha-glucosidase inhibitors | Sanofi | TBC | TBC | TBC |
出典: GBI analysis, Clarivate
医師と患者は、これまでに実施されたVBPラウンドの効果を実感し始めています。T2D治療に関連する医療費は大幅に削減され、ジェネリックのSGLT-2阻害剤やDPP-IV阻害剤への患者のアクセスは改善され、医療保険基金は持続可能な状態を維持しています。
近年のアクセスおよび償還制度の改革はイノベーションを促進し、T2D市場の売上を増大させ続けている
SGLT-2阻害剤とGLP-1受容体作動薬は、従来のT2D治療薬と比較して比較的高価ではあるものの、血糖値の低下、心血管疾患や体重減少などの点で、患者さんにとって良好な臨床プロファイルを有しています。最近、GLP-1受容体作動薬がすべてNRDLに組み入れられたことや、VBPプログラムの第4ラウンドにエンパグリフロジンおよびカナグリフロジンのジェネリック医薬品が組み入れられたことで、T2D治療薬市場にポジティブな勢いが生まれています。患者さんは、血糖値や治療歴に応じて、高額な自己負担をすることなく、後続の治療ラインでより性能の高い薬剤群に切り替えることができるようになりました。
表2: 中国本土における2019年および2020年のNRDLアップデートに含まれるT2D治療薬のリスト
治療薬 | 開発元 | NRDL収載年 | 値下げ率 | NRDL収載前の売上上昇率 (YoY) | NRDL収載後の売上上昇率 (YoY) |
Dapagliflozin (Forxiga) | AstraZeneca | 2019 | 72.68%10 | 95.9%4 | 206.7%4 |
Insulin degludec (Tresiba) | Novo Nordisk | 2019 | 8.48%10 | 443.75%4 | 380.45%4 |
Empagliflozin (Jardiance) | Boehringer Ingelheim | 2019 | 57%10 | 94.63%4 | 341.92%4 |
Canagliflozin (Invokana) | J&J | 2019 | 58%10 | 556.52%4 | 34.73%4 (generic entry) |
Lixisenatide (Lyxumia) | Sanofi | 2019 | 29%10 | – | 1079.63%4 |
Insulin degludec / insulin aspart (Ryzodeg) | Novo Nordisk | 2020 | 47.4%11 | 875%4 | 76.28%4 |
Dulaglutide (Trulicity) | Eli Lilly | 2020 | 64.52%11 | 140.82%4 | 370.9%4 |
Benaglutide (Yishengtai) | Shanghai Benemae Pharma | 2020 | 54.52%11 | 68.53%4 | 122.2%4 |
PEG loxenatide (Fu Lai Mei) | Jiangsu Hansoh Pharmaceuticals | 2020 | 58.68%11 | – | 66.59%4 |
出典: GBI analysis, Clarivate
クラリベイト China In-depthの詳細な分析によると、毎年行われるNRDLの更新は、中国本土で進化するイノベーション・エコシステムの触媒として機能しています。これまでVBPプログラムに参加していなかった多国籍企業 (MNC) は、スペシャリティドラッグのポートフォリオに焦点を当て、NRDLへの登録を確保するために、臨床的有用性を実証できる革新的な製品を開発するようになりました。
2019年および2020年のNRDL更新 (カテゴリーB) への参入交渉に成功したいくつかのT2D治療薬は、前年比で好調な売上を記録しており (表2)、低価格と部分的な償還による良好な患者の取り込みを示唆しています。
中国本土の農村部は、医薬品開発者にとってアクセス拡大の大きな機会となる
農村部では、都市部に比べて糖尿病による死亡率が高く、血糖コントロール率を向上させるために、より効果的で忍容性が高く、費用対効果の高い治療法に対するアンメットニーズが高いことが示唆されています。
国家医療保障局は、T2Dに処方されるインスリンを含む中国本土の既存および新規のジェネリック医薬品/バイオシミラー医薬品のほとんどをVBPの対象とすることを目指しており、農村部の患者は今後10年間でより効果的なT2D治療法へのアクセスが改善されることが期待できます。
クラリベイトの予測では、中国本土での発売が予定されている他のいくつかの治療薬 (セマグルチドやドルザグリアチンなど) が良好な臨床データを示していることから、今後10年間でT2D治療のパラダイムが大きく変化する可能性が高いと考えています。
この記事は、クラリベイトのアナリストがChina In-Depthのデータと分析をもとに作成したものです。China In-Depthには、患者数、アクセスと償還の環境、治療パラダイム、パイプライン、薬剤レベルの予測などが含まれます。
中国本土のヘルスケア市場と疾患別トレンドに関する情報にアクセスできます。
China In-Depthのお客様は、中国本土のT2D治療市場に関する著者の全レポートにこちらからアクセスできます。
References:
1 Diabetes in China (2019). Diabetes.co.uk, [online]. Available at: https://www.diabetes.co.uk/global-diabetes/diabetes-in-china.html (Accessed 20 June 2021)
2 China (2020). International Diabetes Federation, [online]. Available at: https://idf.org/our-network/regions-members/western-pacific/members/101-china.html (Accessed 22 June 2021)
3 Deepening Health Reform in China (2016). Healthy China, [online]. Available at: http://www.indiaenvironmentportal.org.in/files/file/HealthReformInChina.pdf (Accessed 23 June 2021)
4Clarivate China In-Depth analysis
5 China launches price war to reshuffle pharma industry (2020). BioWorld, [online]. Available at: https://www.bioworld.com/articles/432505-china-launches-price-war-to-reshuffle-pharma-industry-bayer-cuts-prices-by-90-to-secure-market?v=preview (Accessed 23 June 2021)
6 China’s Third VBP Round (2020). China Pharmaceutical & Biotechnology review, [online]
7 China’s 4th VBP Round (2021). China Pharmaceutical & Biotechnology review, [online]
8 Second round VBP tender completed amid contention (2020). GBI Source, [online]
9 Sanofi: Global grows 2.8% in 2019, China nosedives 21% in Q4 (2020). GBI Source, [online]
10 Innovation Momentum (2019). China Pharmaceutical & Biotechnology review, [online]
11 GBI analysis