中山 裕木子 氏
株式会社ユー・イングリッシュ 代表取締役
公益社団法人日本技術英語協会 理事・専任講師
2021年秋になりました。大学や大学院の秋学期の開始を目前に備え、英語論文の執筆に挑戦したいと考えている学生の方々、そろそろデータをまとめなければと考えている研究者・教員の方々に、英語論文アブストラクト執筆にあたっての英語表現のコツをお伝えいたします。
私は、論文執筆のための伝わる英語の書き方の理系学生や研究者への指導に加えて、英語論文の校閲サービスも行ってきました。その中で、「日本人著者の書く英語の弱点はどこ?」と聞かれることがありました。
英語ネイティブやその他の伝わる英文を書くのが上手い著者はどのように表現しているのか。どうすれば伝わりやすい英文が書けるのか。抽出したのは、論文校閲を行うときに修正することが多い次の5点です。日本語と英語の言語の違いによって生じる不具合となります。
【日本人著者が陥りがちな5つのタブー】
- 主語が頭でっかちで、文構造が読み取りにくい
- 必要以上に客観的な表現
- 話し言葉のようにカジュアルな語り口調
- 名詞の単複と冠詞が不適切
- 著者の意見が適切に表せていない
それぞれのブラッシュアップの例を挙げます。
1. 主語が頭でっかちで、文構造が読み取りにくい
×In this paper, a contact angle-dependent model to reproduce soil–water hysteresis behavior is proposed.
(本論文では,土壌-水ヒステリシス挙動を再現するための接触角依存モデルを提案する。)
→The paper presents a contact angle-dependent model to reproduce soil–water hysteresis behavior.
動詞が文の前半に来るように移動しました。無生物の主語The paperを活かしました。
2. 必要以上に客観的な表現
It should be noted here that flood evacuees may drive to shelters instead of walking.
(洪水の避難者が徒歩ではなく車で避難所に向かう場合があることを考慮すべきである。)
→Notably, flood evacuees may drive to shelters instead of walking.
文頭から情報が出るようにIt should be noted here thatを副詞一語に言い替えました。
3. 話し言葉のようにカジュアルな語り口調
But the conventional coupler is large in diameter, so miniaturization is an issue.
(しかし、従来のカプラーは直径が大きく、小型化が課題となっていました。)
→However, the conventional coupler is large in diameter and requires miniaturization.
接続詞であるButの文頭使いは「話しているように書いている」ため控えました。また、接続詞so(「だから」)はカジュアルなので控えました。
4. 名詞の単複と冠詞が不適切
×Carbon monoxide can be used as the medicine when doctors operate on recipient of transplantation.
(一酸化炭素は、医師が移植を受けた患者を手術する際に、薬として使用することができる。)
→Carbon monoxide can be used as a medicine in operations on a recipient of transplantation.
the medicineはtheがあるために「まさに唯一の薬」となっていたのでaに変更。recipientは必ず数えるためにaを使いました。 また、when doctors operate onを短くしました。
5. 著者の意見が適切に表せていない
×From our experiment, we think that vinegar would lower blood sugar and insulin levels.
(実験から、酢が血糖とインスリン濃度を下げると考えられる。)
→Our experiment suggests that vinegar can lower blood sugar and insulin levels.
thinkは論文で不適なため控えました。無生物主語experimentを使いました。wouldは「含み(~だろう。条件がそろえば)」のニュアンスが出てしまうので控えました。
さて、来たる9月16日(木)開催のセミナーでは、この5つを克服するために日本人著者がどこに気をつければよいかという具体的なチェックポイントと、5つの表現に陥ってしまった場合にどのようにしてブラッシュアップすれば良いかを具体例を使ってお伝えします。クラリベイトのデータベースWeb of Scienceから取り出した論文表現をお手本に、伝わる英語論文アブストラクトの書き方を一緒に学習しましょう。
今回のセミナー特典は、上記のような【論文アブストラクトの英語チェックポイント】に加えて、【著者の意見を上手く表す表現テンプレート】です。「~と思われる」「~と考えられる」などを適切な確信の度合いで表す表現を選んで使っていただけます。セミナーへのご参加をお待ちいたします。
<ウェブセミナー開催概要>
開催日時に参加できなくても、事前申込をいただいた方には後で録画版をご案内します。
【開催日】 2021年9月16日(木)14:00-14:45
【講 師】 中山 裕木子氏(株式会社ユー・イングリッシュ 代表取締役)
【主催】 クラリベイト・アナリティクス・ジャパン株式会社
【対象】 研究者・大学院生・URA・図書館員・研究推進の方など、研究および研究支援に関わる方
※同業者はお断りする場合がございます。予めご了承ください。
【参加費】 無料
※事前登録が必要です。
【お申込み】 https://interest.clarivate.jp/202109_16_webinar_wos
これまでの内容を復習されたい方は、次の動画をご覧ください。