中山 裕木子 氏
株式会社ユー・イングリッシュ 代表取締役
公益社団法人日本技術英語協会 理事・専任講師
(森 清 撮影)
本年度も長い冬を乗り越え、2022年の春が近づいてきました。ここ数年で仕事や日常生活のオンライン化が進み、インターネットを通じて世界の情報がこれまでに増して英語で多く入ってくるようになりました。この先、英語の情報を正しく読み取る力、そして伝わる英語で発信する力がますます重要になってくるでしょう。
そのような中、研究者やエンジニアの方々が英語論文を効率的かつ効果的に執筆するためには、日本語と英語がどのように異なる言葉であり、どのような点に気をつければ伝わる英文が書けるかを知っていただくことが役に立つと考えています。
これまで、2020年と2021年にも2回ずつ計4回の英語論文執筆セミナーを担当させていただきました。英語と日本語の名詞の扱いの違いや英語の動詞の効果的な使い方、英語の時制の考え方など、各文章を英語で正しく明瞭で簡潔に書く方法をお伝えしてきました。
さて、短い英文が正しく書けるようになったら、英語論文執筆にあたって次に配慮すべき英作ポイントは何でしょう。それは、短い文を長くするときや、文と文を組み合わせて早く情報を読者に届けようとするときの効果的な文のつなぎかたです。文と文の結びつきが強いという点は、英語が日本語と大きく異なっている部分でもあります。日本語は「そして」「ゆえに」「したがって」などという接続の言葉でつないでいく傾向がありますが、英語は、接続の言葉に頼らなくても、内容や文構造によって文と文が結びつき、情報が効率的かつ効果的に伝わる言葉です。
さて、この「文と文をつなぐ」というテーマについて、論文アブストラクトの日本語を使って、まずは練習をしてみましょう。「海水から水素を作り出す」技術に関する論文のアブストラクトの冒頭を想定して作成した英文例にお目通しください。
英文例:第1文Direct splitting of earth-abundant seawater provides an eco-friendly route for the production of clean H2. 第2文However, this method is hampered by selectivity and stability issues. 第3文Direct seawater electrolysis is the most established technology. 第4文It attains high current densities in the order of 1–2 A cm-2. 第5文 As an alternative to this technology, light-driven processes such as photocatalytic and photoelectrochemical seawater splitting are particularly promising as well. 第6文The processes are promising because they rely on renewable solar power.
第1文地球に豊富に存在する海水を直接分解することによって、クリーンな水素を環境に優しい方法で生成することができる。第2文しかしながら、海水からの直接分解には選択性と安定性の問題があるためにこの方法には限界があった。第3文ところで、海水を直接電解する技術は最も確立された方法である。第4文この技術によると1〜2 Acm-2オーダーの高い電流密度を実現できる。第5文またこれとは別の方法として、光触媒や光電気化学による海水分解などの光駆動プロセスを用いることも着目されている。第6文このプロセスは再生可能な太陽光発電を利用するため有望である。
(英文例・日本語例ともにWeb of Scienceより抽出した論文にもとづき筆者が練習用に作成)
各文が比較的短く、十分に読みやすい英文です。しかし、より早く情報を読み手に届けるために、また語数の節約のために、関連する2文をまとめてみましょう。大切なことは、読みやすさを損なわずに効果的にまとめることです。
第1文と第2文
△Direct splitting of earth-abundant seawater provides an eco-friendly route for the production of clean H2. However, this method is hampered by selectivity and stability issues.
→等位接続詞butでまとめる
○Direct splitting of earth-abundant seawater provides an eco-friendly route for the production of clean H2, but is hampered by selectivity and stability issues.
*2文目の主語を繰り返さずに等位接続詞butでまとめました。
第3文と第4文
△Direct seawater electrolysis is the most established technology. It attains high current densities in the order of 1–2 A cm-2.
→文末の分詞構文でまとめる
○Direct seawater electrolysis is the most established technology, attaining high current densities in the order of 1–2 A cm-2.
*文末に分詞__ingを配置することで、前の文に対して流れ良く情報を加えました。
第5文と第6文
△As an alternative to this technology, light-driven processes such as photocatalytic and photoelectrochemical seawater splitting are particularly promising as well. The processes are promising because they rely on renewable solar power.
→従属接続詞を使って複文にまとめる。また、文頭に副詞を配置して、前の文(第4文以前)との結びつきを表す。
○Alternatively, light-driven processes such as photocatalytic and photoelectrochemical seawater splitting are particularly promising as well, as they rely on renewable solar power.
*As an alternative to this technology,(これとは別の方法として)が長いので、Alternatively,(代りに)という副詞一語で表しました。次の文の情報は従属接続詞を使って短く配置しました。
1.等位接続詞でつなぐ、2. 文末に置く分詞構文を使ってつなぐ、3. 従属接続詞を使って複文にまとめる、4. 副詞で前文との結びつきを強化する、という4つの方法をご紹介しました。
練習問題の形式でご紹介しましたが、つないだあとの表現はWeb of Scienceに収録された論文アブストラクトよりお借りしました。
Direct splitting of earth-abundant seawater provides an eco-friendly route for the production of clean H2, but is hampered by selectivity and stability issues. is hampered by selectivity and stability issues. Direct seawater electrolysis is the most established technology, attaining high current densities in the order of 1–2 A cm-2. Alternatively, light-driven processes such as photocatalytic and photoelectrochemical seawater splitting are particularly promising as well, as they rely on renewable solar power.(続く)
タイトル:Tapping hydrogen fuel from the ocean: A review on photocatalytic, photoelectrochemical and electrolytic splitting of seawater
RENEWABLE & SUSTAINABLE ENERGY REVIEWS、巻142、記事番号110866、発行MAY 2021
短い文が書けるようになったら、それを上手くまとめる。このことにより、短い文がブツブツと途切れて並ぶ印象になってしまったり、また代名詞ItやTheyで開始する文が増えてしまったり、またいわゆる接続の言葉Therefore, Moreover, Accordinglyなどを多用して文と文を無理につなげている印象になってしまったりすることを防げます。また、語数を節約できるためアブストラクトに含められる情報が増えます。読み手にとっては、「まとまった情報を短い時間で一気に読み取れる」という利点があります。
ご紹介した「等位接続詞」「文末の分詞構文」などのほかにも、文と文を実際につないでまとめる別の方法、さらには文と文を実際にはつながずに内容の結びつきを強化する方法まで、各種の項目があります。4月(4月21日開催。お申し込みは下記)と9月(9月15日開催予定)の2回のセミナーを通じて全項目をお伝えいたします。
第1回目のセミナーとなる4月21日には、英語論文アブストラクト執筆が上手くなる「文を効果的につなぐ方法 完全マスターシート」をご提供いたします。英語論文アブストラクト執筆時の迷いを減らし、自信を持って、伝わる英語論文を書くコツをマスターしていただけるように準備をしています。是非ご参加ください。