英語論文の執筆が上手くなる:
「序論」と「考察」の英語表現ポイント(第2回)

2023年も後半にさしかかりましたが、研究の進捗状況はいかがでしょうか。秋の国際学会発表に向けてプレゼンの準備をしている研究者の方や、執筆途中の論文を一気に仕上げたいという研究者の方とお話する機会があり、論文の山場といえる「考察」の英語表現が難しい、というご意見を聞くことがありました。

 

論文執筆の伝統的な論述形式であるIMRAD(イムラッド)では、論文の各セクションとなるIntroduction(序論)、Methods(方法)、Results(結果)、そしてDiscussion(考察)を使用して、効果的に著者の主張を伝えます。具体的には、「序論」で研究のテーマと解決すべき問題を明確に伝え、「方法」で実際に何を行ったかを詳説し、「結果」で主要な結果を提示します。そして、最後に「考察」で、「序論」であげた問題に照らした推論を述べます。特に、「序論」であげた問題が研究によって解決できたかどうかを述べます。

 

さて、データベースWeb of Scienceから抽出した、インパクトファクターが付与されたジャーナルに掲載の論文から、「序論」と「考察」の一部を読んでみましょう。「オープンソース」を指定したWeb of Scienceの検索により、論文全文を入手します。今回は生成AIであるChatGPTをトピックに選びました。

 

タイトル:

Decisions with ChatGPT: Reexamining choice overload in ChatGPT recommendations

ChatGPTを用いた意志決定:ChatGPTの推薦における選択肢過多の再評価

JOURNAL OF RETAILING AND CONSUMER SERVICES, 75,

Nov 2023

「序論」の書き出しの1文を読みます。

 

  1. Introduction

Recent years have seen rapid development in artificial intelligence (AI) and machine learning (ML) technologies, transforming the way we interact with our surroundings and revolutionizing many aspects of our lives, including consumer decision-making (Hu and Pan, 2023; Jan et al., 2023; Mariani et al., 2022; Melumad et al., 2020; Ruan and Mezei, 2022).

 

「昨今、人工知能と機械学習技術の急速な発展により、周囲との関わり方が変わり、消費者の意志決定をはじめとした生活の多くの側面において革命的な変化が起こっている」と書かれています。引用文献が複数あがっています。「序論」に典型的な、無生物主語を使ったSVO構文、現在完了形による書き出しです。

 

次の段落の第1文目を読みます。

 

Chatbots powered by GPT (Generative Pre-trained Transformer) models have become increasingly popular due to their advanced language processing capabilities. ChatGPT can understand the context of the conversation and provide more accurate and relevant recommendations (Dwivedi et al., 2023; Stokel-Walker and Van Noorden, 2023; Zhai, 2022).

 

主題である「GPTモデルを利用したチャットボット」を主語として使っています。「高度な言語処理能力を持つため、話題となっている」とあります。この文の主語Chatbots powered by GPT modelsを引き継ぐ次の文では、焦点を当ててChatGPTを主語にしています。「ChatGPTは会話の文脈を理解し、より正確かつ関連性のある推薦を提供できる」とあります。

 

また、続く段落では、より具体的に、「個人の指向性にあった種々の推薦を提供してくれる」というChatGPTの利点が記載されています。1文を抜粋します。

 

In summary, the advanced capabilities of ChatGPT allow it to provide a large option size in highly personalized, accurate, and diverse recommendations.

 

「個人に高度に特化した、正確で多様な推薦(personalized, accurate, and diverse recommendations.)」を提供でき、「選択肢が多い(a large option size)」ことが記載されています。

 

さて、次の段落ではいよいよ、本研究の課題が明示されます。

 

Despite the advantages of ChatGPT, our understanding of the impact of ChatGPT on the change in consumer decision-making is quite limited in theoretical and empirical investigations. This paper focuses on the choice overload problem in decision-making.

 

「ChatGPTには利点があるものの、ChatGPTが消費者の意思決定に与える影響については、理論的および実証的な研究が十分になされておらず、本論文では、意思決定における選択肢過多の問題に焦点を当てる」とあります。our understanding is limitedは研究の限界を示す典型的な表現です。続くThis paper focuses on…も典型的な表現です。

 

続いて「以下の研究課題への答えを出す」と書かれており、(i)~(iii)までの課題が明記されています。

 

In this research, we answer the following research questions: (i) How do customers respond to a large number of options suggested by ChatGPT? (ii) What is the underlying mechanism for the positive effect of a large option suggestion by ChatGPT? and (iii) How do recommendation agents moderate the impact of the number of options on the customers’ responses?

 

次の3つの研究課題が明示されました。

(i) ChatGPTによって提案される多数の選択肢に対して、消費者はどう応答するか。

(ii) ChatGPTによる多数の選択肢提案の肯定的な効果の基本的なメカニズムは。

(iii) 推薦エージェントは、選択肢の数が顧客の反応に与える影響をどのように調整するか

 

これまでに出てきた序論の表現は、次のようになります。

■最近の状況:Recent years have seen _______ (XX, 20YY; XX, 20YY; XX, 20YY)(昨今、~である。参考文献はコンマ、セミコロンを使って明記).

■主題の説明:_______ (主題)have become increasingly popular due to ______.(主題が~であるため、話題となっている。)_______ (主題)+V(動詞)+ O(目的語) (XX, 20YY; XX, 20YY; XX, 20YY).(主題は、~する)In summary, _______ (主題)allow(s) _______.(主題によって、~が可能になっている。)

■研究の限界提示と研究の焦点:Despite the advantages of _______, our understanding of ______ is limited in ______.(~の利点にもかかわらず、~に関する理解には限界がある。)This paper focuses on ______.(本論文では、~に焦点を当てる。)

■問題定義:In this research, we answer the following research questions: (i) ______? (ii) ______? and (iii) ______?(本研究において、次の(i)(ii)(iii)の研究課題に答える。)

 

以上は、「序論」の冒頭における主題の導入から問題の提示までの典型的な流れといえるでしょう。問題の提示表現であるIn this research, we answer the following research questions: (i) ______? (ii) ______? and (iii) ______?は、分野を問わずに使える雛形となるでしょう。

 

次に、「序論」に対応する「考察」を読んでみましょう。あげられた3つの研究課題のうち、(i)の答えを探してみましょう。

 

(i) ChatGPTによって提案される多数の選択肢に対して、消費者はどう応答するか。

 

<General discussion(考察)より抜粋>

Studies 1 and 2 focused on analyzing the responses of participants who were presented with a relatively large number of recommendation options generated by ChatGPT. These studies demonstrated the positive reception of a wide range of song recommendations provided by ChatGPT.

 

今回5つの研究実験が行われましたが、「1と2では、ChatGPTによって生成された比較的多数の選択肢が提示された参加者の反応を分析」、「これらの研究によって、ChatGPTが提供する幅広い楽曲の推薦が肯定的に受け入れられたことが示された」とあり、(i)に対する答えとして、「肯定的」であったことがわかりました。

 

■In summary, the research involved conducting five empirical studies to examine participants’ responses to recommendations generated by ChatGPT, comparing them with other sources, and measuring people’s preferences for recommendation agents.

 

「本研究では、5つの研究実験により、ChatGPTによって生成された推薦に対する参加者の反応を調査し、他の情報源と比較し、推薦エージェントに対する人々の好みを測定した」とありました。文構造は、主語がthe research、動詞がinvolved(含んでいた)、目的語がconducting(実施), comparing(比較), measuring(測定)です。無生物主語を使った明快なSVO構文です。

 

<9.1. Theoretical implications(理論的含意)より抜粋>

Our empirical findings, demonstrating positive responses to relatively large numbers of options, such as 60 or 70, provided by ChatGPT, are provocative in that they change our understanding of the optimal number of options for decision-making.

 

「今回の実証的結果によると、ChatGPTにより提供される60個、70個といった比較的多数の選択肢に対して肯定的な反応が示され、意思決定における最適な選択肢数の考え方が変わる可能性が出てきた」と書かれています。無生物Our empirical findingsを主語にし、are provocative in that S + Vで、「SがVであるという点において、provocative、つまり興味深い」としています。

 

序論であげられた課題(i)に対する答えを探して、部分的に「考察」を読みました。これまでに出てきた「考察」の表現をまとめます。

 

■行ったこと:_______ focused on …ing _______.(~は、~することに焦点を当てた。)

■These studies demonstrated _______.(これらの研究によって、~が実証された。)

■In summary, the research involved  …ing _______,  …ing _______, and  …ing _______.

(要するに、調査では、~、~、~を行った。)

■Our findings are provocative in that _______.(今回の知見では、~であるという点において異なる示唆がもたらされた。)

 

「序論」で問題提起をし、今回の研究で得られた結果について、序論であげた問題に答える形で「考察」で論じる、という序論と考察の典型的な表現をご紹介しました。来たる10月12日(木)のセミナーでも、「序論」に応答して論じる「考察」に焦点を当てて、使える便利な表現を国際ジャーナルから学びます。是非ご参加ください。

 

10月12日開催のウェブセミナーのお申込みはこちら